令和元年度司法試験予備試験論文再現答案(刑法・A評価)
今回は刑法です。
これで上3法は終わりです。
答案枚数は3枚半程度・A評価(ビックリ!)でした。
全答案の中で一番分量があったように思います。
それくらい刑法は時間との闘いでした。
再現時では強盗利得罪を基礎とした強盗殺人罪に触れなかったことをものすごく悔やみましたが結果的にそこまで痛手にはならなかったようです。
第1 本件土地をA売却した行為につき、業務上横領罪(刑法(以下省略)253条)が成立しないか。
1 まず「業務」とは委託を受けて他人の財物を保管することを業とする職業または職務をいうところ、甲は不動産業者を経営しており、Vから委託を受けて本件土地を占有しているから「業務」といえる。
2 次に、「占有」とは事実上の占有のみならず法律上の占有も含むと解するところ、甲はVから本件土地の登記済証や白紙委任状等を預かっていることから本件土地を法律上占有しているといえ「占有」にあたる。
3 では、「横領」したといえるか。「横領」とは不法領得の意思の発現たる行為をいうところ、不法領得の意思をいかに解するか問題となる。
(1) この点、毀棄隠匿でも横領罪の保護法益を害することは可能であるから不法領得の意思とは委託の任務に背いて他人の財物を所有者でなければできないような処分をする意思をいうと解する。
(2) 本件において、甲は本件土地に抵当権を設定する権限しか有しておらず、本件土地を売却することは所有者たるVでなければできない処分であるといえる。
したがって、甲のかかる行為は不法領得の意思の発現たる行為といえ「横領」にあたる。
4 よって、甲に対し、業務上横領罪が成立する。
第2 本件土地の売買契約書に「V代理人甲」と署名した行為につき有印私文書偽造罪(159条1項)が成立しないか。
1 まず、「偽造」といえるか。
(1)「偽造」とは、名義人と作成者の人格の同一性を偽る行為をいう。そして、名義人とは当該文書から理解される意思または観念の表示主体という。
判例は、代理人による署名が行われた場合、名義人は本人であるとする。
しかし、文書の表示主体は代理人であると解されるから判例には賛成できない。
そもそも、文書偽造罪の保護法益は文書に対する公共の信用の保護にある。
そこで、代理人という肩書・資格が公共の信用の基礎となっている場合には代理人という肩書付きの者が名義人であり代理人という肩書のない者が作成者であると解しここに人格の同一性に偽りがあると解する。
(2) 本件において、Aは甲の話を信用して本件土地を購入することとしているので、代理人という肩書が公共の信用の基礎となっていると解する。
したがって本件土地の売買契約書の名義人は本件土地の売却する権限を有する代理人甲であり、作成者は本件土地の売却する権限を有しない代理人甲であるといえる。
よって、名義人と作成者の人格の同一性を偽るといえるから「偽造」にあたる。
2 そして、「行使の目的」とは偽造文書を真正な文書として認識させ、または認識可能な状態におくことをいうところ、甲はAに本件土地の売買契約書を交付して、真正な文書として認識させているから「行使の目的」が認められる。
3 また、本件土地の売買契約書は「権利、義務…に関する文書」といえる。
4 よって、甲に対し、有印私文書偽造罪が成立する。
第3 本件土地の売買契約書をAに交付した行為につき、偽造私文書行使罪(161条1項)が成立する。
第4 Vの首を背後から力いっぱいロープで絞めた行為につき殺人罪(199条)が成立しないか。
1 まず、首をロープで絞める行為は人の生命に対して現実的危険性を有する行為といえるから殺人罪の実行行為にあたる。
2 もっともVは溺死しているから因果関係が認められないのではないか。
⑴ 因果関係の有無については、条件関係に加えて、行為の危険性が結果へと現実化したか否かによって判断すべきである。
⑵ 本件において、甲がVの首をロープで絞めなければVは溺死しなかったと言えるから条件関係が認められる。
そして、被害者を殺害した犯人が被害者を海に遺棄することは十分にあり得るといえるから、Vが溺死するという結果は首を絞めるという行為の中に含まれていたといえる。
よって、行為の危険性が結果へと現実化したといえ、因果関係が認められる。
3 そうだとしても、甲が意図した因果関係とは異なる。そこで、故意(38条2項)が認められないのではないか。因果関係の錯誤の処理が問題となる
(1)この点、因果関係も客観的構成要件要素であるから故意の対象となると解する。
そして、故意の本質は規範に直面し反対動機の形成が可能であったにも関わらず、あえて行為に及んだことに対して強い道義的非難が可能な点にある。
そこで、認識していた事実と実際に発生した事実が構成要件評価の点で一致していれば、故意が認められると解する。
具体的には、刑法上の因果関係が一致すればよいと解する。
⑵ 本件において、甲が認識していたロープで絞められて死ぬという事実と溺死するという事実はともに「人が死ぬ」という点で刑法上の因果関係が一致するといえる。
よって、故意が認められる。
4 したがって、甲に対し殺人罪が成立する。
第5 Vを海に落とした行為は客観的には殺人罪の構成要件に該当するものの、甲は死
体棄罪(190条)の故意しか有しないから殺人罪は成立しない。(38条2項)
もっとも重過失致死罪(211条後段)が成立し、上述の殺人罪に吸収される。
第6 以上より、甲に対し、業務上横領罪、有印私文書偽造罪、同行使罪、殺人罪が成立し、これらは併合罪(45条前段)となる。
以上
以下、再現時コメント
自己評価 D
刑訴から先に解いて、残り75分あったので、それなりに時間はあったと思う。
しかし、結局時間が足りず、罪責検討書く時点で残り20秒ほどだったので牽連犯ともかけず、全部併合罪としてしまった。
重過失致死罪のところももう少し書きたかった。
余裕があると思い刑訴終了時にトイレに立ったのが結果的に裏目に出た。
私文書偽造の論証はもう少し短くてよかった。
基本的論点であると思われるので相対評価でグッと下がってしまったと思われる。
今後はどうすれば論点落としがなくなるのか検討することが最重要課題といえる。