令和元年度司法試験予備試験論文再現答案(刑事実務・C評価)
今回は刑事実務です。
答案枚数は3枚・C評価でした。
ただ、民事実務と合わせてなので実際の評価は不明です。
第1 設問1
1 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法(以下「法」と略称)207条1項、81条)については、罪証隠滅の対象・態様・客観的可能性・主観的可能性を総合考慮して判断すべきである。
2 本件において、確かに本件事件に使用されたと思われる傘、黒色キャップ、両腕にアルファベットが描かれた赤色のジャンパーは捜査機関に押収されており、証拠隠滅を図ることは不可能である。しかし、接見を禁止しなければ、Aの友人に対して、被害者たるVや目撃者たるWを威迫するよう依頼して供述内容を変更させるおそれがあり、かつそのような依頼をすることは容易である。よって、客観的可能性が認められる。また、Aは3年間の執行猶予期間中であり、再度有罪となれば執行猶予が取り消される(刑法26条1項)こととなるからAの友人に対して上記のような依頼をする動機が認められる。よって、主観的可能性も認められる。
3 以上の事情を総合考慮して、裁判官は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があると判断したと思われる。
第2 設問2
1 直接証拠とは、要証事実を証明するために役立つ証拠のことをいう。
本件において、Wは「持っていた傘の先端を相手の男に向けて突き出し、相手の男の腹部を2回ついた。」と犯行の具体的内容を供述していることから目撃証言にあたる。
そして、茶髪の男の顔は、よく見えたと供述し、知らない男であるBの写真を指差している。したがって、Wの供述はBの暴行の事実を証明するために役立つ証拠といえる。
よって、Wの警察官面前の供述録取書はBとの関係では直接証拠にあたる。
2 他方、Wは黒色のキャップの男の顔はよく見えなかったと供述していることから、キャップの男がAであると認定できない。よって、Aとの関係では直接証拠にあたらない。
しかし、黒色のキャップの男が障害に及んでいたという事実からAが暴行の事実を推認することができる。
第3 設問3
1 「傘の先端でその腹部を2回突いた」事実について暴行の故意(刑法38条1項)が認められず無罪である。
Aが歩いていたところ、Vにいきなり後ろから肩を手でつかまれ驚いて勢いよく振り返ったところ、偶然Vの腹部にあたったに過ぎない。しかも傘があたったのは2回ではなく1回である。よって、Aは暴行の結果発生の認識・認容にかけるといえる。
よって、Aに暴行の故意は認められず無罪である。
2 「足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行を加え」た事実について正当防衛(36条1項)が成立するから無罪である。
AはVが拳骨で殴り掛かってきたという「急迫不正の事実」に対して、逃げたい一心という「防衛の意思」をもって上記行為に及んでいる。また、Vが両手でAの両肩をつかんで離さなかったという事情に照らすと、多数回蹴ったというのは「やむを得ずした」行為といえる。
よって、上記の行為に対し正当防衛が成立し、Aは無罪である。
第4 設問4
Aの弁護人はAからVやWがいっている通りの暴行を加えたという事実を聞かされている。それにも関わらずAの無罪を主張することは真実義務(弁護士職務基本規程5条)に反し許されないのではないか。
1 この点、弁護人は法廷における被告人の唯一の保護者であり、被告人の利益となるように行動することが求められる。
そこで、弁護人が負う真実義務とは真実を積極的に明らかにする義務とは異なり、真実を積極的に明らかにすることを妨げないという消極的真実義務にとどまると解する。
2 本件において、Aの弁護人がAの無罪を主張することは、真実を積極的に明らかにすることを妨げるものとはいえない。
よって、真実義務に反しないといえるから弁護士倫理上の問題はない。
第5 設問5
1 Bの被告人質問の内容は裁判所書記官によって調書化される。(刑事訴訟規則37条、39条1項)そこで、検察官はBの被告人質問を記録した供述書を取り調べ請求しようと考えたと思われる。
2 そして、その証拠について、弁護士が不同意とした場合には、伝聞例外(法321条1項1号)にあたると主張するべきである。
3 本件において、供述書は公判廷での被告人質問の内容を記録したものであるから、「裁判官の面前…における供述を録取した書面」にあたる。
また、Bは被告人質問時と異なる供述をしていることから「前の供述と異なった供述をしたとき」といえる。
よって、伝聞例外の要件をみたす。
以上
以下、再現時コメント
実務刑事 自己評価B
民事を解き終わった時点で5分程度オーバーぐらいだったので時間に余裕はあると思っていたが最後ギリギリになってしまった。
設問5の伝聞例外についてはもっと書きたかったが時間が足りなかった。
あと設問2の間接証拠については分からなかったので流すかんじになった。設問3については過剰防衛かなあとも思いましたが、弁護人からの主張ということで正当防衛を主張した。
全体的にはそれなりにできたかなという印象。